昨日のぜいたく

 「不要不急」という言葉を毎日メディアなんかで耳にして、歯医者に行くのすらためらっていたわたしは、虫歯を悪化させてしまったんだった。アホですね。わたしは医者ではないのだし、早目に医療機関に電話で相談すれば良かったと、歯とメンタルを削られながら思った。ちなみに、わたしのかかりつけ歯科は、いつも清潔でスタッフや歯科衛生士の声掛けもやさしく丁寧だし、医師の仕事は速くて腕が良いので助かる (歯医者が苦手ですみません……)。

 削られたメンタルを取り戻すため、子どもと誰もいない場所に目星をつけ、出掛けることにした。「ステイホーム」の大切さは分かっているけれど、三密を避けながら近所でメンタルを回復したって良いでしょう? とも思う。

 麻酔の効いた口で子どもに提案して、残りもののエビピラフやキュウリの浅漬け、冷蔵庫にある焼くだけ、温めるだけ、切るだけのおかずをお弁当箱に詰めてもらう。オシャレとかはどうでもよい。敷物を持って、パックの野菜ジュースを持って車に乗る。

 目的地は車で5分くらいの丘の上。平日の昼過ぎ、誰一人いなかった。桜の舞った葉桜の下あたりにシートを広げる。二人で座るとぎゅうぎゅうだった。子どもが大きくなったのだ。目の前に散って流れてゆく桜や、鳥のさえずりを聞きながら、そして遠くに見える山並みを眺めながら、お弁当を食べる。ものすごくゆっくりとした時間。満たされていく感覚。途中で犬の散歩に来た二人組がいたけれど、ほかには誰も来ない。こういうのが、ケの日のささやかな贅沢だなと思う。

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 ごちそうさまをしたら、すぐに片付けシートを畳んで車に戻った。空いている時間帯のスーパーで食材を買い、また家に帰る。

 地球儀で見れば小さなこの国にも、地域差がある。国という単位で行うことと、地域の状況で判断することも必要なんじゃないかなと思う。気を緩めるということではなく、冷静に自分の目で周りを見てみること。長丁場になるかもしれないからこそ、日常のなかでは落ち着いていたい。