キンピラとパンダ

 落ち込んだまま家に帰りたくなくて、スーパーに寄った。入り口で手を消毒後、カゴを持って、いつものスーパーを、いつもとは違うルートで歩く。目に付いたもので、おっ!と気分が上向きになるものは、カゴに放り込む。人生初購入の美容雑誌、白ワイン、ピスタチオ、プロテイン入のヨーグルト……。

 仕事のことで、モヤモヤしていた。これを取り入れたら業務負担が軽くなるんじゃないか、ということがあり、それは比較的すぐに取り入れられ、料金も掛からないんだけど、周囲はあまり良い顔をしていない気がしたのだ。

 よそよそしい空気を感じるのは勝手になので、何かあるならはっきり言ってくれ……と思うなら、もしかして何か思ってることがありますか? と聞けばいいのだろうか。わたしはエスパーじゃないので、エスパーの苦労も分からないけれど、今だけエスパーになりたかった。

 悶々としながら、キッチンで人参を二本千切りにしたら、スッキリした。キッチンで野菜を切っていると、時々、心まで整えられるからすごい。キンピラにする。

 今週の占いのラッキーカラーは、黄色とピンクだった。黄色は冬のセーターにあったけど季節は春だし、ピンクは持ってない。わたしのクローゼットにはカラーが足りないらしいが、似合わないカラーを増やしても仕方ないじゃないか。カラー的に詰んだ一週間。

 嫌味を言われたなと気が付いて、相手が気付いていないことはあるが、相手が気付いていることが伝わることもある。
 これもどうしようか迷うところで、そういうことあるよねー、と流して普通に接するか、嫌味を言われるほどの付き合いがある間柄じゃないからなー、と仕事モードで行くか。


 そんなときに読んでいた本で、「いい人なんかいない」という一文に出会った。要約すると、以下のようなことだ。

「‘いい人’というのはいない。人にはそれぞれ、いい部分と良くない部分があって、牛柄のようにまだらになっている」

 そうなのか、わたしもそうか、とスルメでも噛みしめるように何度も読んだ。牛柄か……あまり好きではないので、人はみんなパンダだと思おう。そういや「パンダ銭湯」という絵本があったな、と思考が脱線する。

 いくつになっても、人で悩むけれど、その人の中で生きているし、助けられてもいる。いい人なんかいなかった春。パンダが増えた春。ラッキーカラーが無い春。桜はまだ咲かない。キンピラは大量にある。


 

追記、ハンカチにはピンクがあったのでセーフ。