ニモが将来メスになっても

 ディズニーのアニメーション映画が好きだ。『ファインディング・ニモ』でわたしも知ることになった海水魚クマノミ。かわいい。水族館に行くと、いつも少し渋滞しているのは、その展示エリアということが多い。だってかわいい。

 先日、ぼーっとテレビを見ていたら、クマノミが出てきた。クマノミは環境によって性別が変化する、という研究が進んでいるそうだ。性別が変わる…え…ニモも? ちょっとした衝撃を受けた。

 調べてみると、魚に詳しい人なんかには既に知れ渡っている事実のようで、わたしは今さらビックリした無知な人間であった…。簡単に分かったことを以下に記す。

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 クマノミは生まれたときはみんなオスだという。そして、あるイソギンチャクの集団のなかで、一番身体の大きな個体がオスから性転換してメスとなり、その次に大きなものが成熟したオスとなる。そのほかは未成熟なオスのまま。しかし、もしメスが死んでしまった場合。二番目に大きかったオスがメスへと性転換し、さらに次に大きな個体がオスへと成熟するという…。

(参照元東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター

https://www.cole.p.u-tokyo.ac.jp/curriculum/674)

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 知らんかった…そんなすごい特性があるなんて、という感想を持ちながら、ふと我に返る。…わたしもちょっとだけ、その感覚が分かるかもしれない (わたしは落ち着いています)。

 わが家は一人親家庭なのですが、周囲の環境により、自分のなかでモードが変わっているような気がするのだ。

 働いているときは、父親モードに入っていると思う。端的に言うと、家計をまわすために、仕事をしてお金を稼ぐ。そういう意識でいるからか、職場で恋愛は発生したことがない (そもそも恋愛にそそぐエネルギーが足りないのもある)。休憩中、よその家庭の話題や、噂話なんかにも、あまりついていけない (本当に休憩しているのでコミュ力が落ちる)。子育ての話題には加わったりする。

 家に帰るときには、徐々に母親モードになる。洗濯、料理、掃除、食料品の買い物などにはじまる家事全般。子どもの世話や話を聞く。学校のプリントを読んだり、持ちものを準備。夕飯を食べ、お風呂に入り、なるべく子どもと猫と早く寝る…zzz。

 クマノミまでとはいかないが、日常のなかで、使っている感覚が大きく振れている。そんな生活を、もう10年以上続けてきた。きっと、一人親でなくても、そういう感覚を持つ人はいるのではないかと思う。

 それでは、環境を取り払った、ただの自分になれるのはどんなときだろう、と考えてみる。ミシンを無心でかけているとき。自分のための通院。猫と過ごしているとき。子どもが出掛けている休日、ひとりで自分の買い物をしたり、本を読んだり、ドラマや映画を観ているとき。図書館で本を選んでいるとき。何かを書いているとき。

 ここで思い至る。ただの自分を取り戻す。そのために、わたしはこれまでずっと、誰かに求められてもいないのに、細々と何かを書き続けているんだろうなぁと…。ずいぶんと前には、仕事として書いていた時期もあったが (小さな編集部でライターと編集)、今はそういう仕事はしていない。そんな自分がまだ書いていることに、納得した。

 ニモが将来メスになっても、ニモがあのような性格のクマノミであることは、たぶん変わらないだろう。それに、クマノミはかわいい。最終的に、水族館へ行きたくなった。