今年は見送ったもの (短歌~2021秋)

 「笹井宏之賞」に応募することを、彼の短歌を読んでから、一つの目標にしていた。毎年9月末に〆切が来るのも、一年の区切りとしていい。今年こそ応募するぞと思っていたけれど、四十首あたりから、思い浮かばなくなっていた。無理矢理に五十首書いたとしても、それが自分の心に沿ったものとはあまり思えなくて、今年は見送ることにした。それでも、一年前に作ったものを来年に持ち越すのはなんだな、と思い、ここに残念な気持ちとともに、載せておく。ま、いいか、と思えるものを選んで。来年はこれを越えられるといいな。ではまた。

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猫だって できるのだよと キーボード 踏み施行する 解けないロック

 

 

人間も 獣ですから シミなんて 模様だと言うきみ 猫の母

 

教室へ 入れぬ子持つ 地球儀は  この世広しと 泰然自若

 

アパートの 壁に小さな 穴ありて 先住民の 想像をする

 

ぼくたちが 束の間集う この星を 汚した証か 空気清浄機

 

窓口に 感圧紙似の 男あり 悪戯書きを 試みる我

 

次にこの 星と星とが 近付くは 60年後と 母からLINE

 

愛に似た 汚染物質 ありまして 半減期とか どうなってんの

 

正座して 端と端 ぴたり 合わせれば 洗濯物に 現れる祖父

 

雨粒は 四分音符にて 流れ落ち 五時のチャイムの 和音を乱す

 

嬉々として ラベンダー摘む 吾子の手に 泳ぐタコ二匹 勉学の間に

 

背泳ぎを した夜(よ)見上げる 天井に 旗並び あと 5メートルで夢

 

耳鳴りを 今日の倍音として聴く 窓から即興入りするカエル

 

スキップを しているのでは ありません 毛虫を避けて 散歩する初夏

 

老犬と かつて渡りし 赤き橋 氾濫の河に 半身で立つ

 

来し方を スラー記号で 行く末に 柳のしなやかさを見よ、今

 

朝霧の 森を歩きて 茸採り 見上げれば木々 紅く染まれり

 

似ていると 言われるたびに 嫌だった 父の顔また 曇らせて嗚呼

 

悲しみよ きみはぼくだけの 悲しみだ 浮気をせずに 掻き抱かれよ

 

貧の字の 始まりはこの 食卓と エンゲル係数 減らさぬ所以

 

資本なき ものを好んで しまうため 世の潮流へ 流浪する我

 

暗闇で 猫が爪立て 餌を乞う 夢と夜明けの 狭間で給仕

 

犬の目は 白き幕引き 鼻先で 我に気付きて 振る尾 残影

 

眠剤を 一粒取り出す 破裂音 真夜中の猫 片耳立てる

 

褒められた 料理ばかりを 繰り返す 一等星の 祖母と似た癖

 

献立は 人参を千切りにする 音聴くための コンセプトより

 

包丁の 指先かすむ みじん切り 思い出したる 愛猫の手に

 

いつかこの 日常茶飯事 懐かしむ 時が来るのを 知らぬふりして

 

庭眠る 生き物たちの 亡骸は 毎春芽吹き 鮮明に咲く

 

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追記、最近、洋楽より聴いてるk-pop。「サイコ」の解釈がかわいいし斬新。BTSはダンスもすごいしPOPな曲も好きだけど、こういう静かな聴かせる曲も歌えるとこのギャップが推せる。

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