その文に脈はあるか

 数年に一度。大抵は自分がなにか決断するとき。決断することは決めているが、それがはたして正しいのか、答えは生きてみなけりゃ分からないってとき。勇気をもらうために、わたしが観る映画がある。『風と共に去りぬ』。1939年公開のアメリカ映画。この映画を、今年のアカデミー賞を差別的に比喩するために使った米大統領の発言が、日本でもニュースになった。

 『風と共に去りぬ』という物語の時代背景には南北戦争 (1861~1865年) がある。アメリカが奴隷制度廃止へと向かう、その激動の時代を生きる南部生まれの白人女性を描いている。歴史を知っているわたしたちは、南部生まれの主人公が敗者の道を辿ることを知っているのだ。奴隷やメイドを雇う裕福な家に生まれ、何不自由なく、きらびやかな生活を送っていた主人公のスカーレットが…。

 この映画で、主人公を演じたヴィヴィアン・リーアカデミー賞で主演女優賞を、そして主人公の乳母(メイド)役で出演したハティ・マクダニエルは、黒人俳優として初めてアカデミー賞(助演女優)を受賞している。物語の設定である、当時の差別的時代背景をもとに作られた映画という文脈を読み取った上で、公開された年の演技において、主演と助演のふたりにアカデミー賞が授与されたのだと思う。

 スカーレットは、人種差別に敏感ではない人間だし、その美貌と気性の荒い性格ゆえ自分勝手に人を振り回し、結婚しても初恋の相手に心を寄せたりもする。一方で、彼女は敗戦者として戦渦を逃げ惑い、飢え苦しみ、また愛する人をさまざまな形で失い、絶望しそうになる。それでも「I'll never be hungry again.」と夕陽に向かって立ち上がり、「tomorrow is another day.」と呟いてひとり階段を上っていく。その、まだ見ぬ "未来" に立ち向かって行く彼女の生きる強さに、わたしは魅力を感じ、惹かれてしまう。

 少し前に観たある海外ドラマで、なにを以て差別的発言と判断するかという議論のなか、「文脈で捉える」という意見で場がまとまるシーンがあった。前述の残念なニュースを見たあと、この「文脈」という考え方を思い出した。単語に反応して、文脈を読まなくなるような狭い世界はつまらない。少なくとも、わたしは今後も『風と共に去りぬ』をまた何度も観るのだろう。

(再掲)