Pretend to be my sister

これはグーグル翻訳で「姉の振りをする」で出てきた英訳だが、はたして合っているのだろうか。髭男の曲名で調べたひとも多いだろうから、pretend はものすごい市民権を日本で獲たのだろうと思う。どうしても前置きが入るな、わたしの文章は。これはイントロ…

短編 「ワカちゃんの結婚」

その大型ショッピングモールの一画にある、全国チェーン展開しているガラガラに空いた宝飾店で、わたしはひとり、結婚指輪を選んでいた。相手は諸事情があって来れないんですけど今日買います、と店員の男性に告げ、プラチナで宝石は裏に一つ埋め込まれてい…

昨日のぜいたく

「不要不急」という言葉を毎日メディアなんかで耳にして、歯医者に行くのすらためらっていたわたしは、虫歯を悪化させてしまったんだった。アホですね。わたしは医者ではないのだし、早目に医療機関に電話で相談すれば良かったと、歯とメンタルを削られなが…

ピント合わせ

夕方、仕事終わりに運転するとき。視界が少しぼやけるなぁと思っていた。わたしはだて眼鏡しか持ってなく、視力検査でも引っかかったことは無かったので、これがかの有名な老眼かな、とか呑気に思っていたのだ。 眼鏡屋の前を通り掛かり、サングラスが欲しい…

中庭で写真を

子どもたちが校庭に出てくるのを待つ間、集うママ友の特にいないわたしは、ひとり校舎の中庭をぶらぶらと散歩していた。小さな池に、鯉だか金魚だか分からない中途半端な大きさの魚が泳いでいた。二宮金次郎は雪のかぶった日も本を開いており、日当たりがよ…

絵本の長い前置き

思えば、わたしの記憶にある、初めて母が入院したのは、妹を産んだときだった。わたしはもうすぐ4才で、父を真ん中にしてふたつ上の姉と川の字に布団を並べ、母のいない夜を迎えた。***** その夜、わたしはよく眠れずに、父のいびきを聞きながら、暗い…

その文に脈はあるか

数年に一度。大抵は自分がなにか決断するとき。決断することは決めているが、それがはたして正しいのか、答えは生きてみなけりゃ分からないってとき。勇気をもらうために、わたしが観る映画がある。『風と共に去りぬ』。1939年公開のアメリカ映画。この映画…

たどたどしさ

アパートにて暮らしているので、何かが壊れると管理会社に電話して、修理業者がやってくることがある。また、ガスや電気の点検が入ることも。今のところ、毎回別の男性がやってくる。 修理や点検が終わると、これはもう何万回も話してきました、というような…

私的偏愛絵本帳 (6/9更新)

薄れゆく絵本の記憶と記録 (はじまり) 好きなものを不定期更新するのに適した話題はないかな、と考えていた。そうだ、絵本を紹介しよう、と思い付いたので、のんびりやってみる。 まず、わたしは絵本というものが好きだ。面白いもの、難しいもの、よく分から…

短編 「共有ファイル」

冬の暮れ。遠い親戚の不幸のため喪中のぼくは、特にすることもなく、ひとり炬燵に入りながら、ブルーベリー風味の紅茶を飲み、部屋から窓の外を見ていた。雪が舞いそうな、湿って重たそうな雲が空を埋め尽くしていた。既に、山肌には白く筋が通り、もし麓に…

買わなかった話

文章に香水の名前だけの描写が出てくると、困ったなと思う。わたしはそれに詳しくないので、その香り自体の描写がないと、どう解釈していいか分からない。香水をつけるひとなんだ、で終わってしまう。単語って扱いが難しい。 洗剤を選ぶとき、あまり香りの…

読書と体力

「断片的なものの社会学」を読んだ。なにかを書こうとするのなら、いま読めて良かった。熱いうちに文字を打てない方だけれど、読みながらメモしていったことなどを、とりとめもなく書き残しておく。ただ、自分のために。冷めてから訂正することもあるだろう…

それを想像力と呼ぶんだぜ

まあ、タイトルは勢いなんだけれど、そのように思うことがあった。 夜、子どもの様子が変だったので、何かあったのか布団に入ったところで聞いた。泣きはじめた子、慌てて挙動不審になるわたし。話したがらない子。思い付くだけの最近の記憶をたどる。あの…

クリスマスの前に

⚠この記事はR-12程度の内容を含んでいるような気がします。自称それくらいの年齢の方はページを閉じてください。ーーーーーーーーーーーー ネット通販というものをほとんどしない。ずっと現金派だったが、最近クレジットカードを持った。これだけキャッシュ…

短編「ゲンコーハン」(7)友のしるし

曲名も知らないピアノ演奏を聴きながら泣く僕は、なぜ泣いているのか全く見当も付かなかった。ただ、心を硬く幾重にもコーティングしてきたはずなのに、その微かな隙間から何か柔らかなものが侵入してきて、それがあまりに温かく、冷えていた心が徐々に汗ば…

映画 「セッション」

久々に映画の話を。この映画はとても良い映画だと思うんですが、パワハラなどの被害にあったことのある方にはおすすめできません。まずは、予告編をどうぞ。https://youtu.be/mZjUEIV2Ru4 予告編を観て、こういう人が出てくるのムリ、と思ったあなた、かな…

短編「ゲンコーハン」 (6) 虎児を得る

あの日、電話が鳴らなければ良かったと思ったけど、鳴ったから僕は動いた。電話が鳴らなかったら、おそらくいつまでも後悔したままだっただろう。 沖田から「大事な話がある」と新年早々呼び出されて、年始休み中の喫茶店に行くと、そこには相沢さんがいて…

短編「ゲンコーハン」 (5) 能天気と修羅場

きみも僕も知らないひとも、空から見たら「すぐに消えて無くなる物」だと分かっていたら、僕はもっときみを丁寧に扱えたのかもしれない。「あ、その服新しい?」「大学前の古着屋で買った」「へぇー…誰かと行ったの?」「きみの知らない子」「え? 誰」「誰…

短編「ゲンコーハン」 (4) バトンタッチ

卒業式の三日前、母親が亡くなった。担任から朝の連絡事項の一つとして告げられ、通夜の時間を聞き出したと言って、少し苛立ちながら沖田がやってきた。「なんで喪服なんて持ってんの?」 僕の第一声に沖田は呆れた顔をした。「お前なー…ちゃんと拝ませても…

短編「ゲンコーハン」 (3) 沖田とアイちゃん

「沖田、この子?」 相沢が容赦なく竹内を指差すと、あいつの肩がビクッと反射した。俺のベッドに座って、この部屋の主のようにしているが、こいつは彼女ではない。この団地の中での幼なじみであり、中学から彼氏を絶やさない恋愛体質の相沢が、ちょうど彼氏…

短編「ゲンコーハン」 (2) 竹内

はじめて会った日、俺はあいつのボロい自転車を盗もうとしていた。現行犯で見つけたあいつは、怒らないどころか俺をアホだと笑った。変わったヤツだと思ったのが第一印象。なぜか一緒に帰る道すがら、いつの間にか昇った月を見ながら、母親が入院していてほ…

短編「ゲンコーハン」 (1) 月

坂を登ったら、何か美しい眺めが見えたり、このくしゃくしゃな心がすっきりするような、そんな救いを信じていたんだ。だから僕は、ぴりぴりと肌をつつくような冬の風の中、こうして自転車をこいで知らない坂を登っている。そんな夢をよく見ては、汗をかいて…